イタリア風おもてなし番組

最近、イタリアの女性たちを中心に絶大な人気を誇るテレビ番組があります。「Cortesie per gli Ospiti」というもので、訳すと「お客様へのおもてなし」です。一種のリアリティーショーで、2組のカップルがいかに招待客をもてなすことができるのか、を競います。

まず1組目が、2組目のカップルと審査員たちを家に招き、食事を提供します。次の日にはその反対で、招待された方が招待する番です。このように書くと、美味しい料理を振る舞いさえすれば、勝利を手にすることができるかのように聞こえるかもしれませんが、この番組はそう甘くはありません。3人の審査員がかなりの曲者なのです。

・料理人のロベルト厳しい料理の評価をします。

・建築家であり家具デザイナーのディエゴ室内の装飾が、すべての面において調和がとれているのか、色彩の具合や照明の当て方に至るまで、完璧を求めます。

・ライフスタイルおよびテーブルマナー専門家のクサバテーブルセッティングがその環境に適当であるのか、テーブルクロスの布の質や、食器のタイプが、テーブルの中央に飾られた花やローソクと嫌味なくマッチしているか、お皿のサイズが料理に適しているのか、などなどこの人の厳しさに比べたら、先の二人なんて優しいものです。さらには食事中の会話が招待客に気分のいいものであるのかなども評価してきます。

このような三人により史上最強の審査を受け勝者が決定されます。料理は味だけではなく、それを取り巻く環境や作法と相まって、初めて一流と呼べるものになる、といういかにも、美と食を愛するイタリア人が好みそうな番組です。この「おもてなし」番組にJASGA会員 竹村文江さんが出演しました。その時の体験談をお聞きしました。

7月の初めに友人ロベルタから「一緒に出てくれる?」と連絡を受け「covidのせいで暇だからいいよ」と気軽に返事をしたものの蓋を開けて見たらまあ、重労働でした(笑)たった45分の番組のためになんと三日間の撮影!

1日目はロベルタ宅にて我々が料理を作る場面。2日目はライバルカップル宅に審査員らと共に招かれお食事会。3日目はロベルタ宅にて審査員、ライバルカップルを招いてお食事会。つまり料理をまた作り直すわけです。

長年の友人ロベルタは西洋版薬膳の大家を目指していて近々出版されるレシピブックの宣伝のためにも「この勝負 絶対負けられない」と鼻息荒く、撮影前に彼女の家に何度打ち合わせに行ったことか・・。彼女は完璧なベーガンなのでメニューもベーガン。彼女は半年前にローマ郊外の素敵な3階建一戸建て(いわゆるvillaですね)に引っ越ししたばかり。庭には30本ものオリーブの木々が・・と言うと聞こえはいいけれど実際は庭師に毎日のように来てもらってお手入れが大変なのです。

covid以前はイタリア中を周り、狭いマンションなどでも撮影していたこの番組もcovid後は屋外で距離を置きながら、が必須条件。十人のスタッフの一人は常に1mの間隔がたもたれているかをチェックする係。他人と触れ合ってはいけないし、皿などを手渡しすることもできないのです。「あー近づきすぎ、カット、撮り直し!」の連続でスタッフも審査員もピリピリ。当然料理もマスク、ゴム手袋をしながら。(ただし撮影する時には外すので番組の中では誰もマスクもしていませんが)食器はもちろん料理道具も何もかもが消毒されなくてはなりません。揚げ物の下に懐紙をしこうとしたら「消毒してないからダメ!」封を切ったばかりのパックだったのでなんとか許されました。

テーブルセッティングが私の腕の見せ所だったのですがなんとぶっつけ本番でやることに。揚げ物をしている最中に「セッティングお願いします!」と監督の声。テーブルもcovid用に4mx2.5mという巨大なものをテレビ局が用意。ここに7名が座るのです。この日のために大枚をはたいてロベルタが買った食器セットが熱帯植物柄の超くどい柄〜。(前もって相談してほしかったわ・・絶対反対した!)これをどう上品にしかもカントリー風にアレンジするか・・。2台のカメラに撮影されながら、10名のスタッフが見つめる中 気持ちを集中させるのが大変でした。しかも背中を向けないでくれ、だの ずっと独り言を言いながらやってくれ、だの、もううるさいのなんの。本当は1hかけてじっくりやりたかったのに15分足らずで「はいカット、もういじらないでください!」その割にはイメージ通りに仕上がりホッとしました。

7月の下旬は一番暑い時期。この日も37度の暑い日だったのでキンキンに冷やしたおしぼりを用意、(綺麗に漆器に入れるつもりがこれも手が触れ合うとダメだ、と言うことでソーセージのように漆器からぶらりと下げて)welcome drinkのプロセッコのボトルには一期一会と記し意味を説明。稲荷寿しを出したのでお手拭きも出し、配膳の際は日本製の赤漆大盆が大活躍。デザートの黒胡麻ジェラートと共にエスプレッソでなく抹茶を立てて出しました。少しは「日本人のおもてなし文化」を紹介できたかな、と思っています。終日観光を10日間連続でやったくらいの疲労度でしたが(こういうたとえも変ですね!)終わってみれば何事も経験、です。トロフィは記念にいただけるのかと思ったらなんと一つのトロフィを使い回ししているのです。我々の手元に残ったのはトロフィに貼り付けられた二人の名前が印刷されたシールのみ(笑)

この記事がサイトに載るのは番組放映後。審査員たちが何をどう評価したのか私も興味深々で放映日を待っています。

ちなみに11月末以降ならyoutubeでも見られるようです。全てイタリア語ですが興味のある方はどうぞ。以下のように打ち込めば出てくるはずです。cortesie per gli ospiti エピソード名Roberta Humi vs Elisa Federica

竹村文江