イタリアの色に思う

数ヶ月日本にいて久しぶりに帰ってみるローマの空は青く澄みきり太陽はまぶしい。光の粒子が違うのか目に映ってくる色はピカッとさわやかで鮮明です。 乾燥した空気が顔にあたり日本のあの幽玄につながるどこか湿気を含んだ感じの風情や情緒を感じる空気と全く違う世界だなあと再確認しました。目に映る色は空気や湿度や光のベクトルの微々たる違いからひょっとすると同じ物体であっても違ってくるのではと思いました。 そして物の輪郭というか境界線になる部分がローマは日本より明確な感じがします。 人はやはり五感を通じて感じる印象が考え方や判断のつけどころに影響していくでしょうし、視覚でとらえられてきた色彩の再現が建築やファッション等など生活空間の色として生きているに違いありません。そんなイタリアの色の原点となったものに大理石の存在があります。

古代ローマは地中海沿岸の国々を次々に属州化してゆきそこからローマに送り込まれた建材や食材は膨大な量であったに違いありません。大理石もその筆頭でありギリシャや小アジア、エジプトからの実に美しい色大理石が運びこまれ、誰でも使えた娯楽施設の建設にも惜しみなく使われ、その美しい色がすべての人々の目に映っていたのです。

邸宅にはそれを小さく切った破片(テッセラ)で床にモザイク装飾が施されポンペイで見つかった名作「アレクサンダーモザイク」は、なんと150万個のテッセラが使われているそうです。中世には教会のアプシスに壮大なスケールでキリストやマリアをモザイクで表現し、その後ルネッサンス、バロック時代にも古代建築から大理石をはがして教会内外の壁の色どりに大いに再利用されたのでした。もちろんイタリアもカッラ―ラで採れる白大理石も含めてこの自然が放つ無尽蔵の色合いはイタリアの色彩の原点からは外せないと思うのです。

村山依子