皇帝アウグストゥスのノーモンの神秘

ローマは、世界で一番オベリスクの本数が多いと言われ旧市街に13本存在します。初代皇帝アウグストゥスが遥か2000年以上も昔にエジプトのエンポリから運ばせたのがはじまりといわれます。

Questa immagine ha l'attributo alt vuoto; il nome del file è DSCN3997.jpg

そのうちの一本が現在イタリア下院議事堂・モンテチトリオ宮殿前の広場にあり、ノーモンもしくはグノモン(Gnomone)と呼ばれ日時計の一種として使われたオベリスクです。これにまつわるお話がとても神秘的で古代の人々の占星学に対する熱いロマンをたまらなく感じるのです。 その話を今回は皆さんにご紹介させてください。 ローマにカンポマルチオと呼ばれる地区があり、そこは共和制時代に造られたセルヴィアヌスの城壁の外でアウグストゥスの時代に土地開発が行われ次々と多くの建造物が作られていきました。その一つがこの高さ22m近いオベリスクであり、さらに台座に乗せられるとこれは驚くべき巨大なノーモンの日時計の針として高々とそびえ立ったのです。古代の人々はノーモンが太陽の光を浴びて造られる影の動きを見て、時の移り変わりを知ったのです。 紀元前10年ごろの出来事です。

その後すぐ アウグストゥスは、このオベリスクから100mほど東にアラパチス(ARA PACIS)と呼ばれる白い大理石の祭壇も紀元前9年に完成させています。(現在はテベレ川沿いにあり博物館となっているので見学可能です。)現存する古代最高の芸術作品の一つとして知られ特に質の高い浮彫は有名です。現在は色が落ちていますが実は鮮やかな彩色が施されていました。この祭壇は、共和政後期に内戦が繰り返され苦しい時代を生きたローマ人にとって アウグストゥスによってもたらされたローマの平和(パクスロマーナ)の象徴であると同時にこれから始まる帝政時代のとこしえの平和を祈願する祭壇となりました。

そこで40年近く前の話ですが、あるドイツ人考古学がこのオベリスクとアラパチスとの関係性について驚くべき見解を残しています。 その話のポイントは、以下の通りです。「皇帝アウグストゥスの誕生日が9月23日でちょうど秋分の時期と重なります。毎年その日の日没の際 背後から夕陽を受けこの巨大なノーモンは、アラパチスの入り口に向けてピタリと影を落とすのです。こうして神聖なる太陽の光、そしてその影によってアウグストゥスのもたらした平和(の祭壇)とを結び付けていたのです。」 これは、長い間 学者たちの間でも支持された説として研究対象となりました。 ところが、数年前 さらにセンセーショナルなニュースが流れました。インディアナ・ユニバーシティの考古学者Bernard Frischer教授が発表した新しい研究によると なんと前説が完全に否定されてしまったのです!NASAのホライズンシステムを使用して3Dで当時の太陽の動きのシミュレーションをしたそうです。するとノーモンの影は9月23日ではなく10月9日にARA PACISにかかるそうなんです。毎年この10月9日は、パラティーノの丘にあるアポロ神殿祭の日となっています。アウグストゥスは アポロ神に対する信仰が以前から深かったとして知られています。パラティーノの丘のアウグストゥス所有の敷地内にある時 雷が落ち、そこは神の降りた神聖なる場所とし、自宅に隣接させて壮大な太陽神アポロの神殿を建設しています。その竣工式の日が紀元前28年10月9日というわけです。 ちなみに 紀元前31年のアクティムの海戦において アウグストゥスはアポロ神を守護神とし、、対するポンペイウスとプトレマイオス朝エジプトのクレオパトラの連合軍はディオニソス神を掲げて 戦っています。そしてアポロ神のご加護がありこの戦いはアウグストゥスが勝利に導かれたという話があり それから約3年後にこの神殿も完成されています。

そこでFrischer教授は、完全に発想の転換をし、180度角度を変えてこのオベリスクを見たのでした。この10月9日の日暮れ時にFlaminia街道(現在のVia del Corso)側から立って真っすぐAra Pacisをみるとなんとその向こうに美しく重なり合うオベリスクそしてその先端になんと神々しい夕日が丸く神秘的な光を放つのです。アウグストゥスによってもたらされた平和と太陽神アポロとが一体化する神秘の瞬間を捕らえているのです。ご存知のように、太古から人類に恩恵を与え続ける太陽の光は 我々にとっては最高のエネルギー源となります。まさに今は無き古代のパワースポットがここにあったのです。これは年に一度の太陽とオベリスクそして祭壇がおりなす強大な光のスペクタクルショー!と言っても言い過ぎではないと思います。 いかがですか? 私は、このミステリアスな一瞬を想像するだけでまたローマの限りない魅力の虜となってしまいます。

美山留璃子